ITエンジニア/デザイナ向けにオープンソースを毎日紹介

@koyhoge

MOONGIFT 10周年おめでとうございます。もう知ってる人も少なくなってしまいましたが、前身の Open Alexandria の頃からよく記事は読んでいました。今回光栄にも、MOONGIFT さんからオープンソースコミュニティのここ10〜15年の変化についての原稿を依頼されたので、過去を懐かしみつつも書き綴っていきたいと思います。

かつては人が集まる場は貴重だった

私が初めて触れたIT系のコミュニティは、1989年に入会した日本UNIXユーザ会(jus)でした。その当時は人が実際に集まる場は本当に限られていて、jusではその限られた機会としてUNIX Fairという展示会と年2回のシンポジウムを主催していました。年3回、それらのイベントでしか会えない人が全国にたくさんいて、毎回久しぶりに会うその人達との交流を深めていました。その後、90年代後半には各種OSSのユーザ会が次々立ち上がって、そのコミュニティが日常的な活動を行うようになります。

1999年にjusとぷらっとホームが主催して、「オープンソースまつり1999」というイベントを開催しました。私はこのイベントのメインスタッフの一人として、コミックマーケットのように企業とOSSユーザ会が混在した展示会で、コミュニティの人達やそれを知らない人達が実際に集まってワイワイやる楽しさを味わって貰いたいという想いで、イベントを実現させました。その成果なのかは分かりませんが、2000年代に入って以降ITコミュニティ活動はどんどん活発になっていきます。関西では2002年に現在の関西オープンフォーラムが立ち上がり毎年大阪でイベントを開催していますし、2004年にはオープンソースカンファレンスが始まって、種類や開催場所を増やしつつ次回の「オープンソースカンファレンス2014 Tokyo/Spring」で通算100回を迎えます。これを読んでいる皆さんも、おそらく何らかの勉強会やイベントに一度は参加したことがあるでしょう。現在のように毎日のようになにかの勉強会やイベントが開催されるという状況は、ほんの10年前には考えられないことだったのです。

Internet Week 2008にプログラム委員として参画して、「IT Community Impact! ~世界を変える新たな潮流~」というイベントを企画したこともありました。「世界を変える」とかずいぶんと大きく出たタイトルを我ながらつけたものだなぁと今でも思いますが、これはその当時にすでに盛り上がりを見せていた勉強会ムーブメントにフォーカスした、今から見てもInternet Weekでやるには異色のイベントでした。企画した当時の想いは以下のブログ記事にまとめてあります。

IT Community Impact!というイベントをやります - Blog::koyhoge

この記事を見返して思うのは、ATNDが始まり、IT勉強会カレンダーが活動を開始した2008年は、コミュニティ界にとってターニングポイントだったのではないかということです。イベントを企画した当時の自分も「このイベントは今年にやらないと意味が無い」くらいの意気込みだったのを覚えています。環境が大きく変わるうねりの前兆を肌で感じていたのでしょうね。

つまりこういうことです。

  • IT勉強会カレンダーによってイベント情報そのものの共有がなされ、参加者側の敷居がグッと下がりました。

  • ATNDや各種イベント集客サービスによって、イベント開催者側の敷居がグッと下がりました。

これらの両側面からの壁が低くなったことにより、誰でも簡単にイベントを開催できるようになったり、逆に誰でもそのイベント情報を見つけて参加できるようになりました。そこで集まった人々はお互いに話をし、自分の興味や問題点を共有しあって、やがてその場所ならではのコミュニティを形作っていきます。

無数のコミュニティが活動するための触媒が満ちている社会に、この10年をかけて日本は到達したと私は考えています。

リアルタイムコミュニケーションが起こした革命

10年前のインターネット上のコミュニケーションになかったのはTwitter、Facebook等のSNSに代表される「常につながっている感」です。むろん一部の人はその当時からIRCをヘビーに使って、特定の閉じたコミュニティの中ではつながっている感を満喫していました。でも現在のSNSでは、桁違いに多くの人とゆるく浅く(もちろんやり方次第では深くも)コミュニケーションをとることができ、当時のつながり感とは大きく違います。現在では、ブラウザやアプリの画面を開けば、知人たちの状況が途切れることなく次々と流れてくるようになりました。

この結果、ある情報がが口コミを使って広く伝播されるのに、ほんの短い時間しかかからなくなりました。それはOSSのリリースアナウンスだったり、技術情報が書かれたブログ記事だったり、各種イベント情報だったりします。かつてはOSSコミュニティの主流なコミュニケーション手段はメーリングリスト(ML)でした。もちろん未だにMLは使われていますが、人のつながりがより明らかで即応性の高いSNSの方が向いているコミュニケーションも多くあるように感じます。かつてはOSSコミュニティが大きめのイベントをやる際には、マスメディアに告知文章の投げ込みを行い、メディア上に取り上げてもらうことが重要なミッションのひとつでした。今では内容が良いイベント情報は、SNS上で自然と拡散するのでマスメディアへの告知はほとんど行われません。むしろメディアとタイアップして、イベントに関連したコンテンツをコミュニティ側が用意することで、イベント情報の露出と参加予定者への情報提供を兼ねる試みも数多く行われています。OSSコミュニティによっては、ストック型のメディアとしてブログを、フロー型のメディアとしてTwitter、Facebookをうまく使って、効果的に情報を広報している例もよく見られます。

SNSにより発展したリアルタイムコミュニケーションのマイナス面に、人気イベントの申込定員が即座に埋まる問題と、それから発展したドタキャン問題が挙げられます。先に書いたように、情報はそれが魅力的な内容であるほど瞬時に広範囲に拡散されます。そのため100人程度が定員のイベントでは告知開始直後に即座に定員が埋まってしまう例がよく見られます。この厳しい参加競争が、多少無理な状況でもとりあえず参加登録しておくかという意識を呼び、当日になって参加ページからキャンセルしたり、最悪の場合は主催者に何も連絡せずにイベントに来ない「ドタキャン」が横行することになります。イベント主催者側にとってキャンセル率をあらかじめどの程度に見込んでおくのかを考えるのは大変に難しく、参加者が申し込みをしたにも関わらず椅子がないという状況になるよりはと、どうしても安全側に振ってしまいがちです。その結果、参加申込は定員一杯でキャンセル待ちがいるのに、実際のイベントは空席がチラホラあるということになってしまいます。

なんにせよ人同士のコミュニケーションのやり方はここ10年で大きく変わりました。OSSコミュニティも各種ツールやサービスを上手く利用して、効率的にコミュニティを持続発展させていくスキルが求められていくのでしょう。

コミュニティの境目はあいまいに

誰とでも簡単につながるSNSのようなフラットな人間関係を反映して、各コミュニティ間の境目は徐々にあいまいになってきています。もともとOSSコミュニティは厳密な会員名簿など持っていないケースも多く、誰がコミュニティのメンバーなのかは、ひとえに本人の所属意識次第だったりします。近年ではOSSそのものも、様々なレイヤーを横断したものや特定の要素技術に特化したものも多くなっており、その場合そのコミュニティも様々なバックボーンを持った人々が集うことになります。もともと人同士のつながりが発展したのがコミュニティですから、柔軟で有機的に交じり合った人々の非常に多くのつながりそのものが、現在のOSSコミュニティを俯瞰して見える風景になるのでしょう。

その結果、ある人がいくつものOSSコミュニティの顔になっているケースも珍しくはなく、組織(コミュニティ)と個人の関係は一部では完全に逆転していると言えます。OSSの良し悪しを判断するのに、そのコミュニティの大小ではなく、誰が注目しコミットしているかというのが重要な指標になっていることもあります。

このように多くの人が状況によって色んなコミュニティに参加し、そこで人のつながりを広げ、一面的ではない物の見方を経験することは、OSSのエコシステム全体にとって大変良いことなのではないかと思います。複数の価値観が交流することで新しいアイデアも生まれやすくなりますし、特定のアイデアや考え方が特定のコミュニティのみに埋蔵されることもなくなります。

OSSの開発コミュニティにおけるここ数年の最も大きな変化といえば、GitHubなどに代表されるプルリクエストベースの開発手法が一般的になったことでしょう。特にどこかのコミュニティに所属する意識を持たなくても、誰でもソースコードを分岐し、自分の欲しい機能を実現するパッチを簡単に提案することができます。その修正は公開されているので、本家に取り込まれなくても自由に試すことができますし、そこで意見交換をすることもできます。

日夜変化し続けるOSSコミュニティ

今回述べてきたことは、わずか数年で大きく変化してきた内容がほとんどです。現状のすべてが必ずしも最適解とは思えませんし、これからも必要に応じてどんどん変わっていくことでしょう。どのように変わっていくか知るすべはありませんが、コミュニティの看板よりも個人のネームバリューの意味の方が大きくなっていく方向は間違いないと個人的には考えています。個人がどこまでもエンパワーされる世界がOSSコミュニティにもすぐにやってくることでしょう。

今回はほとんど触れなかったOSSのビジネス面を見れば、10年前からは考えられないくらいにOSSはビジネスにとって重要な要素になっていますし、OSSへの貢献を当たり前の事として受け入れているITベンチャーももはや珍しくありません。

コミュニティがどんなに変化しても、人同士のつながりが基本になっていることは変わり様がありません。この記事を読んでいる方は、そこをしっかり踏まえつつ、次々とやってくる新しい波を飄々と乗りこなしていく、ぜひともそんなコミュニティハッカーになっていただきたいと願っています。


最後は2013年までの人気ソフトウェアまとめです。後書きもあります。

10周年記念特集!「オープンソース×10年」

 

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